一瞬だけ見みました
5歳ころ、母の後ろに居たのを。
黒い(黒!というより全体にそこだけモノトーン)マントを頭からすっぽりかぶっていて、目と口の辺りに空洞があるような顔で、そこだけなぜか電灯があたらず表情はよく見えません。
大きな長い棒を持っています。
誰だろう?それが何者かわかりませんでした。
その後、テレビを見てハッとしました。
母の後ろに居た黒い影とそっくり。
「ああ、『しにがみ』っていうのか」と同時に、とても不気味な存在だと知りました。
二度目は前より長く見えました。
8畳の和室の寝室で、母と兄弟(6歳と2歳ころ)とくつろいでいた夜。
母の後ろに、黒い影が。
驚いて二度見したくらいです。
怖くてわなわな震えていた私に気付いた母が「どうしたの」と聞きました。
思わず「ママの後ろに死神がいたよ」と言ってしまい、「しまった!ママに嫌われる」とすぐに後悔しました。
が、意外にも母は、ゲラゲラ笑い、「あー、それ、看護婦の頃によく言われた。私の当直の時は、入院患者がよく死ぬって」と。
叱られずにほっとしましたが。
死神よりも怖かったのはその後の話です。
母の当直になると、周りが「毒ママさんやから、今晩は死人が出るね」と言うのが毎度恒例だったそう。
気の毒に思った私が「本当はもうすぐ死ぬかもしれない人だからママのせいじゃないよね?看護婦って白衣の天使だよね?ママは天使だからその手伝いしたんだよね?」と言うと、
「いや、本当にまだ死にそうにない人も死ぬ。でもな、お金もかかるし、早く死んだ方が家族も喜ぶ」と真面目な顔をして言うのです。
死神よりも怖いもの
ナイチンゲールの本で感動した私の純粋な心も打ち砕く、恐ろしい回答でした。