毒ママを選んで生まれてきたらこうなった

生まれる前と胎内記憶のある毒母第3世代なつみ

あの世への手紙(意味が分かると怖い話)


父の日に贈る花は一般的には黄色いバラだそうで。
そこで思い出した、田舎の土工親父が柄にもなく好きだった花がバラだったことを。
釣り大好き親父が、魚とバラとのコラボを試みた思い出を胸に手紙を書いてみた。

海釣り専門なのにうっかり三途の川へ行ってしまったお父さんへ
そちらで大好きな釣りを楽しんでいますか。
生前は新鮮なお刺身をたくさんありがとう。
父の日のバラで思い出したんだけど・・・
大昔、私が独り占めしてしまった魚、あれがとりわけ美味だったなー。
お父さんがどこかの小料理屋の大将の見よう見真似で捌いたやつ。
旨いんだ、高級料亭の味だって。
でも、やっと仕上げた途端さっさと母は出掛けちゃって。
弟は反抗期なのか、部屋から出て来なかったあの日。
台所でポツンと一人残されたお父さんも、寂しそうに出て行ったあの日。
今度は私がポツンと一人、以前は歓声があがったはずの刺身を前に、バラバラの家族を想いながらいただきました。
色つやのよい刺身が皿にセンス良く盛り付けられて、まるで花のように美しい一皿でしたね。
お父さんの好きなバラをイメージしたのでしょうか。
土木業で荒れた無骨なその手が作り出したとは思えない繊細な包丁さばきに、母よりも器用だったのだと驚きました。(あ、母は無器用っていうんじゃなくて大雑把っていうんですかね)
見た目だけでなくお味も、花びらのようにフワリとした身は弾力があり、噛めば噛むほど仄かに甘い旨み、淡白なのに絶妙な味わい・・・素晴らしかったです。
後にも先にもお父さんのが一番だよ。
その後ご存知でしょうか、帰宅した母がカラの皿を見て「食べたのね!」と言ったのを。
あの時「食事してないのはあなただけ」とのみ言ってさっさと出掛けたから、てっきり私の分だと思ったんだ。
誤解を誘導しておきながら文句を言う、そういう人なんですよ。
でも安心して。
機嫌がよかったみたいで叱られませんでしたから。(
弟には怒られたけどね。笑)
あ、気にしてた”弟が部屋から出てこなかった件”、お父さんを嫌っていたからではなかったみたい。
弟は母に、きつく何度も念押しされてたんだって。
「絶対に食べるな!」って。
・・・・・
美しいバラの刺身。
私には菊花だったように思い出されるのは、年のせい・・・でしょうか。

それとも、お父さんが帰らぬことをようやく飲み込めるようになるまでの永い時間を菊花が寄り添い続けたから・・・でしょうか。
もしよかったら、あの魚は何だったのか夢で教えてくださいね。
では。   なつみ